何度も、何度も。

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唐突だが、僕と彼女との出会いについて語ろうと思う。 あれは、寒い冬の日だった。 大正10年1月21日、午後10時24分。 僕と彼女は、大きな木の下で出会った。 彼女との出会いはまさに運命的だった。 彼女の姿をこの両目に移した途端、僕はビビッと来たのだ。 これが、「恋」というやつなのだと。 しかし、その恋にも一つ問題、いや大きな弊害があったのだ。 それは、彼女がどうしようもなく「子供」だった事、彼女がどうしようもなく「幼かった」事だ。 この時の僕はもう立派な成人男性。 いや、今も成人男性なんだけどね? そして当の彼女はまだ6歳。 ……無理があった。 恋が成立していい年齢じゃなかった。 しかし、ここで諦める僕ではない。 何ていったって僕は彼女に恋をしているんだ。 “せめて今は彼女の側にいたい” そんな事を思った僕は、なりゆきで彼女と時々遊べることになったのだ。 幼少期の彼女は僕が思ったよりも可愛かった。 まるで天使みたいだとも思った。 まだ幼い体に、子供特有の澄んだ瞳。 小さくて柔らかい手に、朝露の葉のようなキラキラして輝いた笑顔。 その全てが愛しかった。 愛しくて、恋しくて……。 月日は流れて、彼女は15歳になった。 西暦も大正から昭和に変わって、すでに5年は経っていた。 変わったのは年齢や西暦だけじゃない。 そう、僕と彼女の関係も変わったのだ。 出会った頃は、“遊んでくれるお兄さん”だったのが、この9年で“ちょっと気になるお兄さん”になったのだ。 いや、僕の彼女に対する気持ちは9年経っても変わらないどころか、ますますその思いは強くなる一方なのだが、変わったのは彼女の方だ。 幼い頃はまったく相手にもされていない感じだったが、今は僕とのちょっとした会話や触れ合いで、意識してくれている彼女がいた。 いわゆる、思春期というやつだろう。 それでも、僕は嬉しい。 例え一時でも、僕を意識してくれる事がこんなに嬉しい事だとは思わなかった。 時の流れとは今まで恐ろしいモノだと思っていたが、そんな僕の価値観を簡単に変えてしまうくらい、彼女の心の変化が嬉しかったのだ。 しかし、そんな時だった。 そんな、ちょっぴり甘い毎日を過ごしている時だった。 彼女の身に異変が起きたのは。
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