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「げほっ、げほっ、ごほっごほっごほっ」
いつの頃からだったか、彼女は咳をするようになった。
これまでも彼女が咳をする事は多々あって、そのどれもが単なる風邪だったのだが、いつの頃だったか、彼女が苦しそうな咳をするようになったのだ。
その咳も最初の一、二週間は風邪の時と同じような、軽い咳だった。
まるでキツネがコンコンと鳴くような、そんな咳。
しかし、その咳が一ヶ月も続くと、最初の頃と比べて随分と苦しそうな咳をするようになった。
彼女は上手く隠せているつもりかもしれないが、時には吐血をしてしまう程酷い咳をする時もある。
後は、熱を出すことが増えた。
咳をし始めた時よりもその症状は悪くなっていく一方で、今では3日に1回は熱を出して寝込んでいる。
心なしか顔色も良くないし、明らかに普通の風邪ではない。
そんな事が素人目にも分かるくらい、彼女の体調は悪化していた。
しかし、そんな時に限って彼女は言う。
「大丈夫だよ、心配し過ぎ!」
と、まるで太陽のような笑顔で。
本当は本人が一番つらいハズなのに、周りの人を心配させまいと笑顔を見せる彼女。
僕はそんな彼女を見ていて、居ても立ってもいられなくなった。
いや、居ても立っても居られなくなったというよりは、毎日少しずつ弱っていく彼女を、ただ何もしないで見ていることに、嫌気が差した、と言った方が正しいだろう。
とにもかくにも、僕は彼女の体調不良の原因について調べることにしたのだ。
一体彼女の身に何が起こっているのか、どうすれば治るのかを知るために……。
一年後。
僕は、彼女の手を握っていた。
結局あれから、有益な情報は何一つ得ることが出来なかった。
僕が調べて分かったのは、彼女の体調不良の原因が、「結核」という病気だって事と、「不治の病」と呼ばれている事だけだった。
その間にも彼女の病状は悪化していき、1年経った今では毎日のほとんどを布団の中で過ごしている。
本当は彼女の病気が分かった時点で病院に入院させなければならないのだが、彼女の強い要望により、最後の時まで家で様子を見ることになったのだ。
とは言っても、彼女の母親も彼女が結核を発症してから数か月後に結核を発症して今は病院にいるので、実質この家には僕と彼女しかいないのだが。
「んっ」
と、握っていた手が少し動いたかと思ったら、彼女が目を覚ました。
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