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いつの間にか僕は先程よりもポロポロとたくさん涙を流していた。
抑えていた気持ちを意識したからだろうか。
涙が止まらない。
次々と溢れ出てくる。
今から考えれば、この時の僕はきっと冷静さを失っていたんだと思う。
涙と共に溢れ出る気持ちが抑えられなかったのだ。
だから、「禁忌」を犯してしまった。
本来ならばやってはいけない事をやってしまったのだ。
僕は止まらない涙と感情に流されるまま、彼女の手を握った。
しっかりと離さないように。
両手で包み込むようにして握った。
「それ」をやる前に、少しだけ僕は彼女を見つめた。
穏やかに眠っているようで苦しそうな彼女の顔を見つつ、僕はあるものを視ていた。
それは、「寿命」。
人間が誰しも必ず備えているもの。
それは人がこの世に生を受けた時からほぼ決まっているようなもので、決して覆すことは、抗う事は出来ないもの。
僕は、彼女のそれを視ていた。
やはり、前回見た時よりも着実に減っている。
もってあと1,2年という所だろう。
僕は握っている手に少し力を込める。
呼吸を整えるように数回深呼吸をしてから、目をつむった。
そして、祈る。
『天におられる神よ、どうか我の祈りを聞き届け給え。彼女の病気を治し、長生き出来ますように……』
これが、全ての原因。
そして、これから始まる長い長い旅路の始まり。
僕が彼女に対して行ったのは、「奇跡」と呼ばれるもの。
この「奇跡」の力を行使すれば、文字通りどんな奇跡だって起こせる。
もちろん、人の生き死にを変えることだって可能だ。
しかし、人の生き死にを奇跡の力で変えることは、本来禁止されている。
神様が言うには、人の命というのは限りがあるから美しく輝けるのであって、それに干渉するというのは、その輝きを汚すのと同義だという事らしい。
僕たち天使は、その事を小さい頃から周りの大人たちに耳にタコができる程聞かされてきた。
あ、すごい今更なんだけど、僕、実は天使です。
まあそれは置いといて。
とにかく、僕はルールでやってはいけないと決められている事をやってしまったのだ。
え?彼女はどうなったのかって?
結果だけ言うと、彼女は奇跡の力で助かった。
「不治の病」と言われていた病気も綺麗さっぱりなくなり、彼女はその後90歳まで生きることが出来たのだ。
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