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白骨に思う
彼女の事を思い出して少し懐かしい気持ちになった私は、もう一度彼女の顔を見ようと歩き出した。
彼女は私が座って外を眺めていた窓とは別の窓から白煙を見ていた。いつの間にか、煙を吐き出す煙突が二本に増えている。ならば、増えた煙突から吐き出される煙を眺めているのだろう。
あの煙を見つめる理由は、きっと私と同じだろう。そう考えながら彼女の背中を眺めていると、彼女の息子らしき人物がやって来て声をかけた。それに応えて、彼女は立ち上がり何処かへ歩き出す。
不意に、彼女が此方を向いて私と目が合った。私は彼女に問いかけた。
「貴女は幸せでしたか?」
「ええ、とても」
そう答えて、彼女は白煙を愛おしげに見つめた。後から来ない彼女を心配した息子から「父さんが恋しいのは分かるけど早く来てよ、母さん」と急かされるまで数分間、動かなかった。
じゃあね、と去って行く彼女を視線で見送り、私は兄の事を思い出していた。
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