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目を見張る秋葉は困惑する。そんなこと台本に書いてない。秋葉は小声でムクロ怪人に扮する男に向けて慌てて言った。
「つ、筒野さん。予定と違いますよ」
「いや、そうなんですけど、実はジャンク役の前島さんが腹痛でトイレに行ったきり、戻ってこないんですよ」
「ええっ! どうするですかっ!?」
「なるべく引き伸ばすように言われてて、とにかく協力してもらえませんか?」
「どのくらいかかるんですか?」
「わかりません」
そう答えた筒野はとても苦い顔をしていた。秋葉は筒野が自分と同じように内心で動揺しているのがわかり、少し冷静な気持ちになることができた。事情も把握した。当然筒野に協力する。というか、協力するしかなかった。子供たちが見ている手前、何もせずにじっとしているわけにはいかなかった。このヒーローショーを楽しみに来てくれた子供たちのためにも頑張らなければならない。しかし、今の秋葉にできることは、筒野のアドリブに乗っかることぐらいだった。
秋葉は意を決し、悲鳴を上げる。筒野は一瞬面喰った様子だったが、すぐにムクロ怪人の役に戻った。
「ふははっ、もう遅い。この世界を手にするのも時間の問題だ!」
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