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嫌がる秋葉に、豪快に笑うムクロ怪人。客席をうろついていたテラーたちも、ムクロ怪人に呼応するように飛び跳ねる。段取りとしては不自然さはなかった。怯える子供に寄り添う親たちも、楽しそうにショーを見守っていた。しかし、打ち合わせもなく、台本にないアドリブというのは長くは続かない。
嫌がる秋葉と笑うムクロ怪人。そのやり取りから中々ショーは先に進まなかった。時間で言えば五分も経っていない。それでも展開しないヒーローショーに大人たちは訝しげ、次第に熱が冷めていっているように秋葉は感じた。
「まだ来ないんですか?」
「まだみたいですね……」
舞台袖では事情を察しているアシスタントの一人が、手でバツマークを作っていた。それを見た秋葉は内心の焦りが表情に出てしまう。まだヒーローは来ない。秋葉はヒーローが遅れてくるものだというのはわかっている。「鉄くず仮面ジャンク」の番組を見ているので、ジャンクはいつも誰かのピンチに駆けつけ、敵を倒して何度も危機を救っている。その姿に子供たちは喜ぶ。だが、秋葉は小さな子供ではない。それが大人たちが考えた演出で、お約束だからジャンクはいつもいい場面でやってくるのだ。だから秋葉は繰り返される都合のいい登場に、少し醒めた目をしつつ番組を見ていた。子供たちとは違い、心の底からヒーローに来てほしいとは思っていなかった。願わなくてもヒーローは来てくれるものだった。
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