ヒーローショー

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 ムクロ怪人は振り返り、秋葉を見た。秋葉はその視線の意味がわからず、困惑した。ムクロ怪人は再度言い直した。今度はよりわかりやすく、秋葉の次の行動を示すように。 「私は最強だ。誰も私に逆らえない! たとえその女がジャンクの仲間であってもな!」  指を差された秋葉は理解した。と同時に狼狽(うろた)えてしまった。筒野は司会進行である秋葉に戦えと投げかけてきた。幸い秋葉の格好は動きやすいものだった。枯れ草色の軍服のような上着に、太ももを露わにした短パン。頭にはつばのついたしっかりした軍帽っぽいものを被っていた。ただ、この衣装は鉄くず仮面ジャンクを支える構成員のもので、彼らがジャンクと同じように戦えるかと言えば、そんな設定はなかった。あくまでもサポートに限られていた。  舞台にいる秋葉は、客席の視線が集中しているのがわかった。ここで逃げるような姿勢を見せれば、ヒーローショーは本当に台無しになってしまう。台本通りでない時点でもうこのショーは破綻している気もしたが、子供たちのためにも何とかするしかなかった。秋葉は戦闘演技の経験こそないものの、学生時代は体操部に所属していたこともあり、身軽に動ける自信はあった。不安を押し切るように半ばやけになって秋葉は言った。 「そ、そうはいかないわ。ムクロ怪人! ジャンクはこうなることを考えて、私に(たく)してくれたわ」     
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