もっと悩んで。

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 そして、俺達は本日三軒目の服屋さんに入った。  ちなみに、俺の目的は一軒目で靴下を購入した時点で達成されており、その後の時間は全て、隣のこいつのために費やされることが真理レベルで約束されているらしかった。  当然のように、次は~とか言っているこいつは、二年前に俺の彼女になった。それから、無茶苦茶に引っ張り回されるようになった俺は、しかし、後悔なんかは一切していない。ただ、覚悟は相当した。そして、現在、案の定だった。  俺の両手は、すでにふさがっていた。ぱんぱんに膨らんだ買い物袋が、これから三つ四つと増えていくと思うと、指の肩の荷が下りることはしばらく無さそうだった。服は、着ていない時が一番かさばるということを知った。  買い物には、もう何度も一緒に行っているが、いつの間にか、これ似合う? とは聞かれなくなった。どうせ、両方似合う、と言うことを知っているのだろう。ところで、何故女の子は欲しいものが二つある時、両方買ってしまわないのだろうか。来月には、また同じような服を買うのに。  鏡の前で、服をとっかえひっかえする彼女の様子は、ムカつくことに、とても可愛らしかった。  華やかな雰囲気のものを持って来ては、相応な笑みを浮かべて見せ、暗色系のものを持って来ては、クールな流し目を鏡にくれていた。そして、鏡越しに目が合うと、はにかんで次の出し物に移った。  小物を選ぶ時は、きらきらした目の奥に、弱冠(じゃっかん)女らしい真剣さを宿していた。  こうやって、こいつの買い物を待つことは、俺にとって至福の一時となりつつあった。相変わらず指は痺れていたけれど、次に出かける時、この服たちを着て来るこいつが早く見たくて、買い物を切り上げたい理由は最早それだけだった。  ただ、さすがに指の先端が新しい血液を欲しがり始めたので、俺は一旦買い物袋を置き、手をふるふる振って血液を更新させた。それを見ていたのか、彼女は一丁前に心配そうな表情で聞いて来た。なるほど、二年も付き合っているのに、俺のこいつへの覚悟のほどを全然分かっていないらしい。  それに、心配そうに眉をひそめた顔もいいが、やはり、楽しそうに服を選ぶ横顔と、鏡に映したはにかみを、できるだけ長く見ていたかった。  だから、俺はいつも、当然のようにこう答える。 「大丈夫」  もっと悩んでいいよ。  
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