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目黒と翼は、立川が営業に廻っている取り引き先の大手スーパーまで来ていた。
「あれだな、立川って奴」
目黒が前方を指差した。
取り引き先の大手スーパー内。
酒類の陳列棚で丁寧に缶ビールを並べているひょろっとしたメガネの若い男がいる。
シャツを腕まくりして、トントリービールの段ボール箱から缶を出しせっせと棚に並べては、少し離れて全体を眺めている。
「そうみたいですね」
話しかけるために近くへ行こうとする翼の腕を目黒が掴んだ。
「まだ、行くな」
「どうしてですか?」
「何か仕事に問題のある奴か少し見ておきたい」
「はあ、そうですね」
目黒と翼は、調味料が並んだ棚に隠れるようにして立川という社員の様子を伺うことにした。
それにしても……。
翼は、目黒に掴まれたままの自分の二の腕を見おろした。
「あの、チーム長」
「なに?」
目黒に優しげな笑顔で見られた翼は、思わずドキッとして目を大きくした。
文句をいうつもりだった。
いつまで掴んでんですかって。
でも…
ドキドキッて心臓の鼓動が全身を脈うつように高鳴る。
目黒の瞳から目を逸らして
「いえ…あの…か!彼、立川さん。一生懸命っぽいですよね。汗で前髪濡れてるし」
掴まれたままの腕の話はせずに立川の話に切り替えた。
「汗をかいてれば一生懸命なのか?」
「いやぁ、汗水たらして働くって言いますし」
並べ終えたのか立川は、少し遠い位置から全体像を眺めだした。
それから、再び棚へ向かい立川は他のメーカーの缶ビールに手をつけ始めた。
それを見て翼と目黒は顔を見合わせ立川の次の行動を見守ることにした。
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