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「ぷっ!なんだよ、そのふくれ顔は。怒ってんの?」 翼は頬を膨らましていた。 スーパーの従業員みたいに他社の缶も綺麗に並べていた立川。きっと、自社の缶を並べてみたら陳列棚に並ぶ他社の缶も気になったに違いない。だから、ついでに他社の缶も並べてみたのだろう。 陳列棚に全ての品物が綺麗に並んでいた方が、取り引き先のスーパーにとってはいいはずだ。 自社の売り上げには直接繋がらないだろうが、取り引き先のことを考え立川は行動したのだ。 見えないところで、取り引き先に配慮する立川の実直な姿勢は素敵だ。 間違って缶ビールをぶちまけ、客に迷惑をかけたことは、スーパーにも客にもマイナスだった。 だが、立川は咄嗟に自分が盾になり2人の客を守っていた。 立川に客を思いやる気持ちが常になければ、すぐにあんな行動にはうつれなかったはずだ。 ミスはしたものの、立川は真面目に一生懸命に働いていた。 そんな立川を鈍臭い呼ばわりする目黒に正直ムカついていた。 自分は、シュッとして何でも出来るしミスもしないからって、チーム長ってば、立川さんを鈍臭いまで言わなくてもいいのに。 たしかに自分の身に降りかかった火の粉は自分でなんとかするべきだと頭ではわかる。わかるが、一緒に頭を下げるくらいはしても良かったのに。 目黒は、ふくれている翼の頬を左手の指先で摘んだ。
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