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「俺がいる」
「え?なんですか?」
離陸する飛行機の気圧の関係で詰まった耳に小さく入ってきた目黒の声。
「いつも俺の隣にいろ」
機体が、安定してシートベルト着用のサインが消えた。目黒の手を押し返して耳抜きのために唾を飲み込んでみるが、まだ少し耳が変だ。
「聞こえたか?」
「いえ全然」
「だろうな」フッと余裕そうに笑う目黒。
本当は聞こえていた。
『いつも俺の隣にいろ』って。
もう、尼さんになろうとまで決意していた。
だから、目黒のアプローチは翼にしたら正直迷惑以外の何者でもない。
「少し寝るから、用がある時は耳の近くで色っぽく囁いてくれ、そうでないと起きれない。わかったか?」
「わかりましたよ。囁けばいいんでしょう?囁けば」
目黒のバカなジョークに翼は呆れていた。呆れていたが、何故か目黒の耳元で囁く自分の姿を想像してしまっていた。
バカみたいだ。
チーム長のおバカなジョークを本気にして妄想までして。ドキドキしたりして。
シートベルトを外し翼は、顔を窓の近くに寄せる。
飛行機の近くに漂う白い雲が音もなく流れていく様子を初めて見るような感じで、翼は飽きることなく眺めていた。
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