家庭教師

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「僕が伝えたいのは、」  僕がいま、イズミの隣でこうしている理由。  清く正しい事だけを見ていたいわけじゃない。 「皆の役に立つはずのものをそういう使い方をしてしまう大人がいて、悪い事も正しい事も多分同じくらいあって…やりたいことすべてができるわけじゃない。自分の能力、弱さに迷って苦しんで…辛うじて自分の足で、もしくは他人の肩を借りて、どうにか立っている」  もちろん僕もその内の一人だ。  借りた奨学金で大学の授業料を払い、ここには金を稼ぎに来ているんだから。 「そんな事情、確かにそこにある真実を、子どもには見えないように覆い隠そうとしたり、お世話焼きな大人もたくさんいて、イズミには…なんて言ったらいいんだろう…そう、僕は僕が知る限り本当のことを伝えたい」  SSWなんて所詮は人をミドルクラスに圧し込めるのが仕事なんだ。  イズミ。もう一四歳にもなったんだから、自分の道は自分で決めろ。  烈しい言葉を間一髪のところで飲み込む。  それ以上は、彼女自身に気づいて欲しいと思っていることまで口走りそうで、僕は黙った。 「……」  イズミは机に頬杖をつき、唇を尖らせてしばらく考え込んだ。  その向こうの本棚には、漫画と、アニメやゲームのパッケージがそれなりに並ぶ。彼女は彼女なりに暇を潰さないといけない。今やこの国が世界に誇るコンテンツは莫大な市場規模を形作っている、らしい。  マリオカートやポケモンで時代が止まっている僕の眼には、昨今めざましい発展を続ける美しいグラフィック技術で想像上の光溢れる世界観を見事に表現して映り… 「絵、描いてみようかな」  唐突に聞こえた言葉に、僕は次回の授業の内容を決める。 「…同じこと考えてたわ。真似すんな」 「うざ!先生には無理じゃない?」  イズミは少し笑って、また頬杖をついた。
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