2人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は落書き帳のページを一枚戻り、780(赤)の部分をペンで軽く叩いた。
「ここを超えた波長の光は、赤外線と呼ばれてる」
「あー!赤の外ってそういう意味なんだ」
「うん。で、こっち分かる?」
次に380(紫)を軽く叩く。
「紫、の外、あ、紫外線!」
「当たり。赤外線や紫外線は不可視光と言って、人間には見えない光だよ」
「私には見えます」
イズミは相変わらず一人でテンションを上げてゆき、こちらへ手のひらを突き出してウネウネと動かしている。
「発射ー、赤外線ビーーム」
「うわああ」
僕は微動だにせず、一言だけ付き合った。
「そう、赤外線レーザーっていうのもあってね。ついこの前、それを使った事件が起きた。模倣犯…真似して面白がる奴らを出さないために報道規制が少しかかってて、テレビなんかではほとんど見かけない」
イズミの背がピンと伸びて、両手が膝の上に揃えて置かれた。今までの話は、どうにか頭でイメージすることができるテクノロジーの一つでしかなかった。
ここから先は、現実だ。
「競馬場で撃ったんだよ。レース中の競走馬の眼に」
「え…」
僕は努めて淡々と話した。
「実は犯人はまだ見つかってない。どこから撃たれたのか見当もつかない。突然暴れ出して手がつけられなくなったからそのレースは泣く泣く諦めて、後に診察を受けてやっと原因が推測できたくらいだ。その馬の右目は、一部の視野を失った」
「イズミ。知ってるかも知れないけど、競馬ってどの馬がどう勝つかに賭けて、当たったらお金がもらえる。そいつがそんなことをしたのは金のためだ。犯人は、予想される勝ちやすさ…オッズというけど、それが低い、遅い馬に賭けただろう。そっちが勝った時の方が儲けが大きいからね」
最初のコメントを投稿しよう!