36人が本棚に入れています
本棚に追加
むくり。床に足を降ろしたと同時に走り出す。ドタバタと階段を降りていく。クロックスに足を突っ込んで玄関のドアを開ける。僅か数歩先で、北斗がしゃがんだ姿勢から背筋を伸ばして立ち上がっているところを見た。腕の中には白猫のダイフクがいる。
「にゃーーーー」
ダイフクが私を見て、鳴いた。すぐに北斗が近付いてきて、私にダイフクを渡す。ダイフクは冷たくなって震えていた。手足が汚れていて、泥だらけだ。
「家猫にこの寒さは致命的だな。ほら、手足の汚れ取って炬燵猫にかえしてやってくれ」
すっかり落ち着いた顔を取り戻した北斗が、笑顔とも真顔ともつかないすかした顔して見下ろしてくる。また、背が伸びていた。前よりずっと高い場所に、憎たらしい顔がある。
「取り乱してごめんな…。まだ、友達でいてくれる?」
「…執行猶予で勘弁してやる」
「はは……。ありがとう。じゃあ、な」
北斗は手をヒラヒラさせて去って行った。人騒がせな奴…。
ダイフクを抱きしめて玄関のドアに鍵をかけたら、急にまた色んなものが溢れ出した。顔をくしゃくしゃにして涙が止まらない。寂しくて、切なくて、惨めになる。
こんな気持ちは初めてだ。
最初のコメントを投稿しよう!