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靴を履き、コートにマフラーに手袋で武装して、家を出る。すっかり溶けた雪景色の跡のいつもの道路を歩いて、わずか五分程度先にある北斗の家までやって来た。インターホンのボタンを鳴らすと、弟が出てきた。まだ小学生の弟は私を見るなり、にやにやと笑って、二階に向かって大声で「兄ちゃん」を呼び出した。
「あら、珍しい…」と、寝ぼけてボサボサ頭の北斗が目を丸くする。手に持っていた紙袋を突き付けてやると、彼をそれを覗きながら顔をほころばせた。笑うと北斗の弟とそっくりな顔だな、と思った。
「わぁ、マカダミアナッツのチョコレート! これ、旨いんだよな! お土産?」
「うん。そう。親がしこたま買ってきたんだよ。おすそ分け」
「さんきゅう!」
能天気にお礼を言われ、次に発する言葉が舌の上で立ち往生する。なんてことない台詞ひとつを言い出すのに、汗が…。こんなに緊張するものかと戸惑っていると、北斗が私の様子をジロジロと見つめながら「うんこか?」と聞いた。
「バカ! お前と一緒にすんな!」
「あははは。ごめん。だって、もじもじしてるし…。まさか、まだあのこと怒ってる?」
勝手に青くなった北斗の間抜け面を見たら、緊張してる自分があほらしくなる。
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