Christmas イブの夜

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「はぁっくしょん!」  突然の大声に飛び上がったのは、白猫のダイフク。せっかく膝の上で眠っていたのに、スルリとドアの隙間から廊下に逃げ出した。全60巻ある漫画本をやっと手放して、時計を見ると信じられないぐらい時が経っていて我に返る。  箱ティッシュから最後の一枚を掴み、鼻をかむ。丁度空っぽになってしまったBOXを踏みつけて、ハナカミで溢れたごみ箱に入れ、それを抱えて部屋を出た。暗くなった廊下の電気をパチンとつけると、冷たく乾いた静けさ漂う家がしんっと返事をした。  軋む廊下、階段、玄関前の床、そして暗いリビングと台所。ダイフクが水を飲むぴちゃぴちゃという音が聞こえてくる。靴下越しからもキンキンに冷えた真冬の冷気が足裏から私の体温を奪っていくので、敷物の上に避難しながら電気を付けた。  灯りが点いた瞬間、誰も居ない炬燵の中にダイフクが潜り込もうとしていた。テレビのリモコンの赤を人差し指で押すと、大勢のざわめきが部屋の中に一瞬で溢れ出す。すっかり冷えた室内を温めようと、ガスストーブの電源も押す。  チチチ…カチン、シュボっという音がして熱風が吹き出し始めた。  とにかく今夜は寒い。いつにも増して寒い。こんな寒い季節にハワイ旅行に当選しちゃったママが、パパを引き連れて出掛けてしまったのは今朝だ。私が起きる前にもう出発していた。テーブルの上に放置したまま忘れていた、食べ残しサンドイッチはしなびて硬くなっている。それを見つめてため息を吐き、ごみ箱の中身をさらに大きなごみ箱へと移し替える。逃げ出す白い子ネズミ達を抓み上げては、苛立ちと共に袋の奥へと押しやっていく。
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