Christmas イブの夜

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 急な海外旅行に行けるのは、パスポートを持っている人に限る。そもそも私は飛行機が嫌いで、何時間も狭いシートでじっとしてなくちゃいけないような旅行には全く興味がなかった。つい最近までは。と、いうわけで。パスポートさえ持っていたら、私も一緒にハワイに行けたのに…。実に悔しい。腹立たしい。情けない。そんな本心を隠して、昨夜は寝る前、笑顔でパパとママにハグをしておやすみなさいと見送ったのだった。  ママは可愛い便せんの封筒に、一万円札を入れて置いて行った。四泊六日というスケジュールで家を空け、一人娘を留守番させるなんて両親にとっても大冒険に違いない。  ガスコンロの隅っこに置かれていた珈琲用のケトルに水道水を入れ、お湯を沸かし始めた。こんなことになるなら、ママの料理をちゃんと覚えておけば良かったよ。外は寒くて、出る気にもならない。この日のために買っておいたカップ麺を、システムキッチンの上の戸棚から一個取り出す。  RRRRRRR……、RRRRRRR………、  黒電話のベル音に設定された私のスマホが、派手になり出した。炬燵の中のダイフクがまた顔を出して不服そうに眼を細め、しっぽを床に叩きつけている。 「ごめん、ごめん」と愛猫に謝りながら、電話に出ると。 「ユキ! 風邪引いたんだって?」と、黒沢 北斗の声がした。
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