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「うん。でも、大したことないよ」
「鼻声ひどいなぁ。もう飯食ったのか? おじさんたち、今朝出発だったんだろ?」
「そうだよ。今頃着いてはしゃいでるんじゃないかなぁ?」
「…そっか。夫婦水入らずで夢の海外旅行だってな。良かったな」
「うん、そうだね。…で? 何の用?」
北斗は付き合いの長い友達だ。主にゲームではよくつるんだ相棒である。北斗には年上の彼女がいるって言うのに、一方の私には十六歳の今現在も色っぽい話のひとつもありゃしない。リア充の余裕なのだろう。クリスマスイブの夜に電話をかけてくるなんて、どういう風の吹き回しかな。
「お前。今頃一人だなぁって、思い出したからさ」
「うん。そうなんだけど? でも、いつものことじゃんか」
「実は俺も今年は、一人なんだよ。奇遇だろ?」
何とも抑揚のない言い方に、ヒヤリとする。
「え? どうして? ミカちゃんは?」
地雷を踏ませたいらしい北斗の誘いに、わざわざ乗っかってやった。電話越しからでもヤツが今にも泣き出しそうな気配がする。
「…寒空の下でするような話じゃないんだよ、これが。聞いてくれる?」
「外にいるの? 今、どこ?」
「サンプラザの巨大クリスマスツリーの前」
「思いっきりデートスポットじゃん。なんで? どういうこと?」
「じゃ、今からそっち行くけど。ケンタッキー買っていくわ。ケーキはあるのか?」
「ないよ~。甘いの苦手なんだよ、私。一人でクリスマスケーキ食べる趣味はないし」
「じゃ、ケーキも買っていく」
「…うん。じゃ、待ってる」
私が言い終わる前に、もう電話は切れていた。
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