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カウンターキッチンの上にある鍋敷きにヤカンを置いて、玄関に向かった。リビングのドアを開けた途端、冷たい空気が素足を撫でる。クロックスを踏んづけて鍵を開けると、鼻の上を真っ赤にした北斗が不自然なほどの笑顔で立っていた。両手には沢山のお土産を携えて。
「うわ! 買いすぎじゃね?」
「良いから、早く受け取って中に入れてよ。寒いんだから」
ドアを開けて初めて気付いたが、まさかの雪が降っていた。東京都内でクリスマスに雪が降るなんて、在り得ないぐらい超レアなイベントだ。ほぼ初めて見る雪に私は興奮し、素足だということもわすれてクロックスで庭に飛び出すと、天を仰ぎながらくるりと回った。玄関の中からそんな私を眺めていた北斗の足下から、ダイフクが身を細くして外に飛び出したのが見えて、我に返る。
「あ! ダイフクが逃げる!」
叫び声も虚しく、彼は去ってしまった。積もる程の雪でもないため、地面はただ濡れているだけで、追跡できる足跡もない。
「…寒いし、すぐ帰ってくるだろ」
茫然自失な私に対して、明らかに不機嫌そうな声で北斗が言った。確かにダイフクは寒さが苦手で、必ず戻ってくる気になる。はらりはらりと振る雪の下を少しだけ歩き回ったら気が済んで、やっと自宅に入って北斗を招き入れてやった。
「お、まだお湯入れてない」
「なんでこんなに早いの?」
「…実はさ、すぐ傍までもう来てたから」
唖然。
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