プロローグ

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 こんな深夜に病院から連絡がいったら、母が卒倒する。そもそも何のためにこんな時間に新宿にいたのか言及されたら。  すると男は肩掛けバッグを取り上げ、大学の学生証とカード式の定期に目を落とした。 「車で送ろう」 「あの、……すみません」  怪我は大したことない。思い切り顔を殴られていて、痣になっている。この顔で電車に乗りたくなかった。 「綺麗な顔なのにな。痕が残らないといいな」  光沢のあるダウンから微かな煙草の匂いがする。香水と煙草と汗の甘い匂い。幼い頃に亡くなった父を思い出した。
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