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煙草が嫌だから見ていたわけじゃない。けど言い訳するのも不自然だ。
「すみません……」
静かに車が発進する。ネオン溢れる歌舞伎町に背を向け、東へ進めば進むほど両脇のビル群は暗くひっそりと陰を潜める。ラジオから気の抜けたDJの笑い声が車内に響いた。
「今日はどうして新宿に?」
「合コンがあって」
嘘は自然と口から出てくる。
自分の性癖を自覚してから、極めて自然に嘘をつけるようになった。好きなアイドル、好きな同級生、好きなタイプ。嘘をつくことへの罪悪感など微塵もない。
「へえ。衆議院議員と合コン?」
「え?」
一瞬、男が言っている意味が分からなかった。
「目的はなんだ。金か?」
俺は思わずびくりと震えた。
尾行されていたのか? だとしても、見られてないはずだ。今日はお寿司を食べてバーに行っただけだ。店からも別々に出た。
「何か勘違いされていませんか?」
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