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必死に久慈の胸にしがみつくように歩いた。あそこで久慈が来てくれなかったら。どうなっていただろう。仮定の話なのに、想像しただけで震えがとまらない。彼の鼓動に耳をつけていると安心できた。久慈は、人の視線から隠すように俺を抱きしめてくれる。
「着いたぞ」
足で扉を開けながらそう言った。
モダンな室内、自分が予約した部屋と酷似している。角部屋だからか少し広い。寝室にはキングサイズのベッドが部屋の中央に置かれている。ベッドの脇にはサイドテーブル、窓際には一人用ソファー。
腕を解かれ、部屋の中央にあるベッドの上に寝かされた。密着していた身体が離れていく。名残惜しさに思わず、その腕を掴んだ。
「すみません、でした」
掠れた声。自分の声には聞こえない。
「何を謝る」
呆れた声。
「だって。――迷惑かけたから」
「別に迷惑なんかじゃない」
その一言に、全ての疑問を忘れ、ただただ素直に嬉しかった。
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