9(R18)

12/24
前へ
/94ページ
次へ
 必死に久慈の胸にしがみつくように歩いた。あそこで久慈が来てくれなかったら。どうなっていただろう。仮定の話なのに、想像しただけで震えがとまらない。彼の鼓動に耳をつけていると安心できた。久慈は、人の視線から隠すように俺を抱きしめてくれる。 「着いたぞ」  足で扉を開けながらそう言った。  モダンな室内、自分が予約した部屋と酷似している。角部屋だからか少し広い。寝室にはキングサイズのベッドが部屋の中央に置かれている。ベッドの脇にはサイドテーブル、窓際には一人用ソファー。  腕を解かれ、部屋の中央にあるベッドの上に寝かされた。密着していた身体が離れていく。名残惜しさに思わず、その腕を掴んだ。 「すみません、でした」  掠れた声。自分の声には聞こえない。 「何を謝る」  呆れた声。 「だって。――迷惑かけたから」 「別に迷惑なんかじゃない」  その一言に、全ての疑問を忘れ、ただただ素直に嬉しかった。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加