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「彼の手癖の悪さは有名だから。君みたいな若い子と一緒で何もないなんてことの方が信じられない」  カマをかけられている。 「若い子って年じゃないですけど」 「まだ学生だろ」  大学四年だ。就職も決まっている。 「俺が何歳だろうと関係ないだろ」  そう言い捨て、俺は目を瞑って寝たふりをして、続く男の言葉を無視した。けれど冷水を浴びせられたように、意識ははっきりしていた。助けてくれて嬉しかった気持ち全てを取り消したい。  恐らくこの男、雑誌か何かお抱えのカメラマンだ。水倉を張り込んでいて、彼と接触した俺の後をつけた。もしかしたら迫の関係者だろうか?  迫は大手テレビ局の政治記者だ。それに水倉を別口で押さえたいとは言っていた。  でも。  迫なら連絡があってもいいだろう。この男は一体、何者だ?  車は旧白山通りを北上し、東洋大学の前を通過し、左折する。 「ここで結構です」  ドアに手をかけると一瞬くらりと立ち眩みがする。治るまでしばらくかかりそうだ。
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