一節 射位

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一節 射位

 晩秋の弓道場に小雨が降り注ぎ、矢道の芝生を青黒く濡らしている。  一礼して、射位に歩を進ませた。的までの距離は28メートル。  半身に構え、両足を踏み開く。立ち位置を探る足裏に、擦り減った床板の感触が荒い。足袋(たび)越しにその摩擦を踏み固めて、下半身の筋肉を引き絞る。体重はやや爪先寄りの前傾姿勢。視界を閉ざして、息吹を深く三度。平時よりも深く、緩やかに、丹田に息を降ろす。袴の帯が腰骨をしなやかに締め付けた。  弦に(つが)えた矢に右手を伸ばす。鹿革のかけ(ヽヽ)越しに弦を親指の根本に引っ掛け、その上から中指、人差し指を軽く添える。次に左手。人差し指と親指の股を直角に開いて弓に押し付け、小指、薬指、中指の順で握り革に絡み付けて手の内を固める。弓矢を(たずさ)える両腕が、緩やかな弧を描いている。
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