人革装幀職人《にんぴそうていしょくにん》

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 その親子とは一定の距離を取って回春院,龍峰院,妙高院と建長寺内の札所を巡り御朱印をいただいてから,総門へと向かうと再び親子の姿が視界に入った。  偶然視界に入ったというよりも,それほど広くはない建長寺の敷地内で親子の進む順序をずっと目で追い,先読みして総門に親子が現れるのを待っていた。  私はできるだけ自然に,偶然同じタイミングで総門に着くようにように装った。  少年の動きは人の少ない境内では目立つため,見つけるのは容易(たやす)かった。  不自然にならないように気を配りながら,親子の後を追うようにして一定の距離を保ち建長寺を出た。  二人はお喋りをしながら,そのまま歩き出した。歩く方向から鶴岡八幡宮へと向かっているのがわかった。  私はスマホでなにかを調べる振りをしながら,親子に気づかれないように、また誰にも怪しまれないように注意を払い静かに後をつけた。
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