人革装幀職人《にんぴそうていしょくにん》

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 思った通り二人は鶴岡八幡宮へと向かい,丸山稲荷社から本宮へと抜けて行った。  少年はもっとも見晴らしのよい大石段の上から海を眺めるようにして立っていたが,すぐに母親に呼ばれ本宮へと入って行った。  お賽銭を投げる二人のはるか後方から,私は黙って少年を眺めていた。今の不純な欲望に満ち満ちた私に拝礼する資格はなく,ただただ少年の後ろ姿をうっとりと眺めていた。  二人が参拝を終え,敷地内にある源平池に向かうのを確認してから私も池に向かった。  その間,誰も私の行動を不信がる者はいなかったし,親子でさえ私の存在に気付いていなかった。
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