人革装幀職人《にんぴそうていしょくにん》

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 私は親子の後を追いながら,胸の高鳴りを鎮めるのに必死になった。このまま親子が江の島へと入れば,そこは私の庭のようなものだった。  江の島は観光地であるとともに,千人以上の住民が暮らす小さな町としても機能しており,その中には飲食店の他にギャラリーやアーティストの工場(こうば)もあった。  私は江の島の中でも,とくに人気(ひとけ)の少ない元々は漁師の道具置場だった漁師小屋の管理を任されていた。  私が経営する飲食店は,元々漁師だったが高齢になり自宅を改築してお店として貸し出している知人から借りて経営していた。そのオーナーがお店のストッカーにでも使えと岩場にある漁師小屋を無償で貸してくれた。  しかし実際には電気も水道もない漁師小屋は何の役にも立たず,いつの間にか私が個人で趣味のために使用するようになった。
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