結・終わらない憂鬱。

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《1》見えない真実。  一同が視線を巡らせた先には、顔色を無くして佇む永井詩織の姿があった。(むご)たらしい光景を目の当たりにして、激しく動揺している。蒼摩は、小さく嘆息を洩らして訊ねた。 「待っているように言ったのに…どうして附いて来たの、永井さん?」 「だって、独りで待つのは怖かったんだもん。」  そう言うと、詩織は『げぇっ』とえづいて、口を押さえる。 腐肉が発する異臭は、激しい嘔吐感を伴って、頻りに彼女を苛んだ。親族の葬儀などで、何度か遺体を目にしたことはあるが…ここまで悲惨な状態のものは初めてである。一瞬にして目の奥に焼き付いてしまった情景は、余りにも哀れで衝撃的だった。  鼻腔を突く悪臭。 融けて変色した皮膚──そして、体に湧いた大量の蛆虫。 「…うっぷ…」 再び込み上げた嘔吐感に、とうとう詩織は屈み込んだ。約束を反故(ほご)にして、蒼摩の後を追って来た彼女は、その結果として、自らの軽率な行動を深く後悔する羽目になってしまったのである。  嘆息する一慶──そこへ。 苦しむ少女の様子を見兼ねて、浬が静かに歩み寄る。 「外に出よう。歩けるかい?」  少女が頷くのを確認するや、浬は詩織を抱きかかえる様にしてハウスの外に連れ出した。
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