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「大丈夫、永井さん?」
「大丈夫…じゃない、です…」
「僕の言うことを聞かないからだよ。あれ、見ちゃったかい?」
「はい。見ちゃいました…」
「それは気の毒に。君には刺激が強過ぎたね。悪い記憶は、精神に異常を来すことがある。早々に忘れてしまった方が良い。」
そう言うと──浬は、詩織の額に人差し指で梵字を書いた。両の指を絡ませて合掌するや、厳かに真言を唱える。
「おん、あぼきゃ、べいろしゃのう、まかぼだら、まにはんどま、じんばら、はらぱりたや、うん。おん、あぼきゃ、べいろしゃのう、まかぼだら、まにはんどま、じんばら、はらぱりたや、うん…」
深く響き渡る中声が、《光明咒》を唱え上げた。何度も何度も繰り返す内に、詩織の頭がカクンと傾く。そのまま気を失って倒れしまった彼女を、浬は優しく受け止め、抱き上げた。
「眠らせたのか?」
「一瞬だけね。」
訊ねる一慶に手短に答えると、浬は蒼摩に向かって叫ぶ。
「蒼摩、急いで後処理を済ませてくれ!これ以上は、巫女の精神が持たない!!」
「浬…?」
「彼女は良く頑張った。これ以上、過度な負担は掛けられない。そろそろ解放してあげよう。」
いつに無く、真摯な様子で訴える浬。
それに追従する様に、一慶が柔らかな笑みを履いて言った。
「確かに、なかなか骨のある子だ。根性見せてくれたからな。後は、俺達で仕上げよう。」
「はい、先生。」
二人の先達に頷いて見せると、蒼摩は静かに祈念に入った。
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