起・憂鬱な日常。

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《1》不機嫌な放課後。  (ひぐらし)(すす)り泣きが聞こえる、晩夏の夕暮れ時…。 昼間の苛烈な陽射しに晒されたアスファルトの道は、まだ冷え切らない溶岩の様に、熱を孕んで焼けている。  道行く者を揶揄するように、頭上に集まるウンカの群れ。それを煩そうに片手で払いながら──姫宮蒼摩は、家路を急いだ。  それにしても、暑い。 九月に入ったというのに、連日、記録的な猛暑が続いている。 太陽は、まだ秋風に主役の座を譲る気はないらしい。  こんな暑い日に… 全く…なんて間が悪いのだろう。 心の中で、ひとりボヤくと──蒼摩は、最寄りのバス停へと駆け出した。ギリギリで間に合った路線バスに、慌ただしく乗り込む。 モバイルフォンを立ち上げれば、画面に表示された時刻は、既に18時を回っていた。 車窓に流れる街の景色を眺めながら…蒼摩は、最悪だった今日一日を振り返る。   ──高校一年二学期の、とある水曜日。 平凡に過ぎる筈だった一日は、見事に真逆の結果で終わった。 日直に当たっていた所為(せい)で、人使いの荒い担任教師に扱き使われ、一日中振り廻されたのである。  それでもどうにか諸事を消化(こな)し、漸く迎えた放課後──今度は、何人かのクラスメイトに、『遊びに行こう』と誘われた。部活をしていない数名から成る、暇人グループである。 (またか…)  蒼摩は、僅かに双眸(そうぼう)(すが)めた。 (面倒臭い…わざわざ誘ってくれなくても良いのに…)  こんな風に声を掛けられる度に、そう思う。 社交辞令と解っていながら、誘われる身にもなって欲しい。その度に、当たり障りのない言い訳を探して、断らなければならないのが、また、煩わしいのだ。
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