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赤い羽の天使
「すごかったね。今日のライブ」
「ああ、良い感じだった。なんか掴んだって感じだ」
「うん、ほんとみんな熱狂してたよ。私も鳥肌立った。すごかったもん。純の歌」
本来立ち入り禁止の荒れ果てたビルの屋上への入り口の錆びついたドアを抜けると、どこか興奮した二人を覚ますように、屋上は、街の喧騒から孤立したみたいに静かだった。
「絶対有名になるよ。純」
唯はその小さな丸い顔を純に向けた。
「俺が有名になったら、こんなおんぼろビルから飛び出して、もっとでかくて豪華な家を買ってそこで思いっきり贅沢して二人で住もう」
純は持っていた缶ビールを飲みながら嬉しそうに唯を見て言った。
「純はもっと上に行ける」
唯は純の話を聞いているのか聞いていないのか夜空を見上げ呟くように言った。そして、唯の腰くらいの高さの屋上の幅五十センチ位のへりに飛び上がると、そこに立って、軽快にステップを踏みながら、両手を広げ踊るようにその小さな体を一回転させた。
「お、おい、あぶねぇだろ」
「ふふふっ」
しかし唯は、笑いながらもう一回転した。ヘリのすぐ横はフェンスなどはなく、はるか下の道路があるだけだった。
「お前ここ八階だぞ」
「ふふふっ」
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