8人が本棚に入れています
本棚に追加
働き盛り40代の男は唯一の趣味である釣りを楽しむ為車を走らせていた。
途中にあるドライブインでいつもの朝食を食べ終わると、車に乗り込みエンジンをかける。
その瞬間電機系統が起き上がり、お気に入りである90年代に流行ったR&Bが流れ始めた。
まるでこれから起こる優雅な一日を一層盛り上げてくれるかのような演出だ。
幸い天候にも祝福され、絵に描いたような快晴が視界いっぱいに広がっている、この日は正に最高の釣り日よりとなっていた。
男は車をドライブインから1時間程走らせた所であまり補正されていない駐車場と呼ぶにはあまりにもお粗末な場所に止めた。
恐らく5台程停められるであろうか、目印になるように駐車場スペースには黒と黄色の捻られたロープが動かないよう等間隔で止め金具が打ち込まれている。
相棒の釣り道具を両肩にかけ、前日考えていた釣りスポットに向かう途中、男は普段誰も通る事のない小川に掛けられた小さな橋で恐らく学生であろう一人の青年の姿を見た。
その佇まいはどこか怪しさよりも憂いを感じさせていて、あろうことか思い詰めこれから飛び降りるのでは?と疑念を感じさせた。
あまり気が進まなかったのだがほっとく事も渋られたので青年に声をかけてみる。「おい、君大丈夫か? こんな所でなにやってるんだ?」
警戒させないようになるべく配慮したつもりだったが、その青年はこっちを振り返る事もなく小川をただただ眺めているばかりだった。
この橋の高さは5メートル程でもし仮に落ちたとしても直ぐ下には足が着く程浅く比較的緩やかな小川があるのでまず死ぬことはないと安堵していたが、青年の魂の抜けたような横顔に危惧した。
しかし いくら声をかけようにも一向に反応を見せなかったので男はついに諦め釣りスポットへ向かうのだった。
一度だけ気にかかり青年を振りかえったがそこには魂の抜けた男がいるだけだった。
そして釣り師はもれなく驚愕することになる。
最初のコメントを投稿しよう!