ふたりの想い

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「ねぇ、人が挨拶してるんだからさぁ、なんか言って欲しいんだけどー…」 天宮アンリは短く青みかかった髪を揺らし、怪訝そうに首を捻っている。 口調は初対面らしからぬフランクな物言いで、コミショよりな俺としてはぐいぐいくるキャラにかなりヒキ気味である。 俺は昔から人と話すのはあまり得意な方ではなく、流行り物にも疎いのと自分からあまり発信しないせいで周りから「変わりものの称号」を得ていた。 今回は一応お隣のよしみと言うことでチラッと天宮アンリの方を見ると軽い会釈と「おう、宜しく」とだけ言ってみせた。 俺にとっては精一杯のリアクションであったのだがその声は天宮アンリには届かなかったようで、その大きな藍色の瞳に不満の色を見せている。 ーーが、その後直ぐに「冗談だよ~」と屈託ない笑顔をこちらに向けた。 その無垢な笑顔に胸がドクンと返事をする。 そんな初めての感覚に一瞬戸惑ったが暫くすると冷静さを取り戻し、大して興味のない数学の授業に耳を傾けるのだった。 なんとなく時々隣の天宮アンリの方に目を向けてみると同じタイミングだったのか目が合う。 驚いて直ぐ目線を反らしたがその後何度も目が合うのでジッと見られているのでは?と疑念を持つことになる。 「な、なに?何かついてるか?」 「べつについてないよ~♪」 「そう…」 特に意味のないやり取りのようだが俺にとっては女子と会話すること事態が珍しく内心かなり緊張していた。 逆に天宮アンリはコミュニケーション能力が高そうで直ぐに誰とでも打ち解けそうな気がして自分とは全く別の人種だろう、と勝手に結論付けていた。 そんな事を思っていた矢先に天宮から質問が飛んでくる。 「ねぇ、叶君てさ 今彼女いるの?」 「…おぇ?!」 あまりにも想像の範疇を大きく超えた質問に一瞬意味が分からず間抜けな声を出してしまった。 「おぇ、じゃなくてさ 彼女いるの?って聞いたの!ニホンゴワカリマスカ?」 授業中という事で天宮は教科書で顔を隠し、ややおどけた感じで質問を投げかけてくる。 「い、いないよ、そんなの…」 俺は同じように教科書を顔の目の前に置きなるべく目立たない様に小声で答えた。
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