賽の河原

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 退屈こそしないが窮屈な人生だったと思う。 「それが、何か。時計の手掛かりにでもなるのか」 「いえ、つまり宇和野大空は死んでいるんですよ」  ビシッと僕に人差し指が刺さる。 「なあ、そのネタで僕すっごい苦しんだの覚えているか、箱根の強羅の話を蒸し返さないでほしいのだけれど、メアリって空気読むの下手なんじゃないか」 「ええ、よく言われます。箱根の事は忘れてください」  日本で一番好きな箱根を忘れる事は出来ない。 「それで、僕が死んでいるから何さ」 「ええ、霊媒者な大空はご存知でしょうが。親より先に死んだ子供は何処に行くと思います」  親より先に死んだ親不孝ものは、賽の河原に行く。  つまり僕は賽の河原に行ったという事か。 「その顔を見るに、私が言った意味が分かりましたね」 「うん。分かった。一度親より先に死んだ僕は、賽の河原に行ったことが有るってことだよな」  賽の河原。  酷い話だと思う。  一重積んでは父の為  二重積んでは母の為  三重積んでは西を向き、  しきみほどなる手を合わせ、郷里の兄弟我がためと、あらいたわしや幼子は、泣く泣く石を運ぶなり。 「賽の河原和讃ですか」     
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