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賽の河原
一人の女が言った。
あなたには妖怪が憑りついていますよと。ケラケラ笑いながら言うその女の名は東海林メアリと言う。
彼女と僕の出会いは、確かそんな具合だった筈である。気持ちの良い出会いでは無い。家の近所にある山は階段が続き、祠と言っていいのか社と言えばいいのか神社にも見えなくは無い。その建物は鳥居を潜ると現れる。
夏は木々が日を遮る避暑地として、秋は紅葉で彩られた空間。冬は雪に隠され殆ど見えなくなる、ここ宙禅堂。
丁寧な掃除の為、いつの季節も、賽銭箱ははっきりと見えているのだが。社からは巫女装束の女性と、五年生と胸元に書かれた体操着姿の女性が凛とした表情で、情けない顔の僕を睨んでいる。
情けない顔と言うのも、先日までコツコツとお金を貯めて購入した時計を落としたからである。
大人の癖に時計如きで、そんな顔をするなよと言いたそうに睨む、二人に言い訳をするのであれば、させて欲しい。
あの宇和野大空がだぞと。
先の夏まで、家賃を滞納し、電気とガス、水道を止められ、千社を超える企業に祈られていた男である。
そんな奴が、とうとう自分の欲しいものを買ったと言うのだ。
それなのに、落としたのである。
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