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もうひとりも同じようだ。歓声をもらっていたのに、戻ってくる時の様子がおかしい。しきりに頭を振りながら、ふらふらとして、泳ぎにキレがなかった。
誰も原因を教えてくれないので、僕は不審になり、最初のやる気を失っていた。出番を引き継いだけれど、不安で蛇行しながら、ガラスへとゆっくり近づいていった。
とりあえず最初は無難に、背ビレを見せて泳いでみよう。それでガラスの半分まできたら、くるっと一回転して、相手の様子をみてやろう。
そういう作戦で僕のショーはスタートした。
少し遠目の距離から腰を振ってスピードをつけ、身体をくるりと横に倒す。背筋をぐっと伸ばして、自慢の黒い背びれと胸ビレを目立つように伸ばした。観客の前を通る時はなるべく動かず、優雅に滑るようにするといい。
すぐに背中の方から、子供の歓声が聞こえてきた。
これで僕の最初の緊張が解けた。ビクビクしすぎて、損した! いたずら好きの仲間に脅かされただけだったんだ。それではと、予定通りなめらかに、身体をくるりと回転させていく。
流れていく景色の中で、左目の端から人間の顔がたくさん、視界に入っていく。見れば大人も笑っている。今回は僕が仲間内で一番じゃないかって思った。
回転が終わろうとしていたその時、僕は喜んでいる子どもたちの顔と顔の間に、まったく違う物をみてびっくりした。
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