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僕もコッコからは素晴らしいものを受け取った。それは人の奏でる「詩」だった。
僕らも詩を持っているけれど、遠くにいるたくさんの仲間たちに聞かせる為に歌う。
コッコは詩を、僕に聞かせる為に歌ってくれる。額を水槽の壁につけて口を動かし始めると、とても心地よい波が、身体を通じて頭に伝わってくる。
冷たい水の中にいるのに、温かさと柔らかいものに包まれて、とても懐かしい気分にさせられた。だから僕はお腹を見せて、精いっぱい気持ちよさを伝えて返す。
コッコと逢えるのは本当に少しの時間だけ。必ず最後に大人が来て、彼女を連れて行ってしまう。
別れの時の、コッコの暗い表情を見るたびに、僕はいつも辛い気持ちになった。
僕はどうしても、少女に笑顔を送りたかった。
それでずっと考えていたあるものを練習して、コッコに見せることにした。
その日も少女はやって来た。
お決まりの挨拶、そして今日はコッコの詩を最初に聞かせてもらった。
それまで不安だった気持ちを、彼女の詩が洗い流してくれた。僕はちゃんとできるって。
歌い終わったコッコが、額をそっと水槽から離した。小さく深呼吸をして、僕を見つめる。
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