5. コッ・コ

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 僕は今までにない言葉の音波を、壁に向かって送った。コッコが初めてのリズムに戸惑いながら、ガラスを細やかにノックした。  たくさんの息を吸い込んだ僕は、プールの底近くに潜り、身体を固定した。水流が落ち着くのを待ってから口をすぼめて、空気の塊を瞬時に押し出した。  最初は球体の空気の塊だった。もういちど軽く吹いてやると、それが潰れた小山のようになり、中央にぽっかりと穴があいた。残されたリング状の空気は、外へ外へと回りだし、やがて水中を漂う輪ができあがった。  泡の指輪(バブル・リング)。  内側から外側へ。循環する空気の輪は、綺麗で安定した形を保ち続けた。そして水面近くまで広がりながら昇り、やがて消えた。  コッコは広げた手でガラスをつかみ、その一瞬に目を見開いていた。  まだ終わらなかった。続けてひとつリングを作った。間をあけず、さらにもうひとつ。すると先にできた輪に吸い寄せられて、次のリングが中をくぐり抜けていった。  調子にのった僕は、たくさんの輪を作って、それを鼻で回したり、輪に触って分割して遊んでみた。すごい。何でもできる気がした。  最後に残ったリングを口の中に入れて、演技を終えた。  やった、成功だ! 僕は朗らかな気分で感情が高まって、クルクルと周り始めた。     
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