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僕? 僕は頑張ってもあんなスピードは出せないし、尾びれで水を蹴っても、オデコが水面に出るだけさ。
でも「まだ」なだけだ。いつか上手になるって、ママが言ってた。その時が来るまで辛抱しなさい。
だから諦めず、毎日家の端の方で練習を欠かさなかった。まさか大人たちがその様子を、つらそうな目をして見ていただなんて、僕はまったく知らなかった。
皆はどうかわからないけど、僕の家には不思議な所があった。
家の片方は青い壁なんだけれど、反対側の壁は透けていて、まるで広大な水がその先どこまでも、遠く続いているように見えた。
僕は好奇心を刺激されて、その先に行こうとしてみた。けれど何回チャレンジしても、固くて見えない壁に阻まれてしまって、その度にオデコに痛い思いをさせられた(そこをぶつけるとママがカンカンに怒るので、黙っていた)。
友達たちはとっくに興味をなくしていたその壁の先。そこにいつか行ってみようと思い、僕はずっと諦めなかった。
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