1. 誕生

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1. 誕生

 温かいものに満たされた袋に浮いて、くるくる回って、もじもじと動きながら。  規則正しい、トクン、トクンと動く大きな波が、僕を安心させる。  お腹の底がジンジンしてくると、ふわぁっと僕に元気が流れ込んでくる。  柔らかな水の布団に包まれて、夢見て起きていつまでも、ずっと揺れる時間を過ごしていられたら、良かった。  けれど、誰かがノックしたんだ。最初は優しい音で、徐々に強く、何回も。そのうち僕の身体がぐらぐらとゆすられて、全然寝ていられなくなった。部屋の隙間がきつくなってきた気がする。  怖くなった僕は、小さな「手」とか「足」とかで、懸命に壁を押すんだけれど、動かしづらいし、ちょっと無理みたい。  なんだか頭の方が冷たい感じがした。袋の水が減ってきたのかな? 思っているうちにも、どんどん身体が寒くなって、やがて温かい覆いが全部なくなった。水なしで袋の底に転がされていると。触れているお腹だけが温かい。トクンという波が直に身体に伝わってきた。  また「うねうね」が強くなって、でも今度はねじるみたいに波打ってきた。ずるずると押され、身体が後ろに滑っていく。     
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