5. コッ・コ

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5. コッ・コ

 いつも挨拶がそれから始まったので、僕はこの女の子を「コッコ」と呼ぶことにした。  そしてこの出会いと発見は、僕の新しい楽しみになった。  コッコは毎日ではないけれど、同じ時間に僕を訪ねに来る。いつも最初に会ったのと同じ場所に座って、僕を待っていた。  コッコはいつも表情を変えないけれど、とても知りたがりだった。  だからまず最初に、僕は自分の名前を教えてあげた。壁の向こうで、人間の彼女が僕の出す音を、どれだけ理解したかはわからない。けれどその音を受け取ったコッコの目は、これまでにないぐらい、興奮して輝いていた。  最初は互いの名前を「発音」し、挨拶するだけで時間は終わっていた。けれどやがてお互いに、それぞれ持ち寄った音を交換しあうようになった。  僕は仲間と交換する時に出す音で、コッコに聞こえそうな音を選んで、届けてあげた。  楽しい/遊ぼう/つまらない/危険/集まれ。時には身体も使って、その意味を教えてあげた。いろいろな人間に試してみても無視されるのに、彼女だけはそのリズムを理解して、返してくれる。だから僕も自分を伝えるの夢中になった。     
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