待ちぼうけ

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 俺がドアを開けた瞬間に見たものを説明しよう。  まず、先輩は部屋の真ん中で椅子に座っていた。  これは問題ない。誰だって椅子には座るだろうし、部屋の真ん中というのは、ヌシ感を醸し出すのに最適だ。生活の動線上無動なんだ、という意見があるかもしれないが、まあ動線だって人によりけりですし。  さて、その先輩が何を持っていたか。釣り竿だ。糸もちゃんとセットされた釣り竿。  この辺から胡散臭くなってくる。  釣り糸の行き先は? 答えは床に置かれたバケツの中。  ちなみにバケツの中は空だ。  これはいけない。  誰かの部屋に行ったとき、その住人が部屋の真ん中でバケツを釣り堀に見立てていたら、どう思うだろうか? あ、これはヤバいってならないだろうか。仮に、釣り部とかフィッシングクラブに入っていたとしても、空のバケツが相手では普通何もつれないものだ。釣りって物の道理を知っているならば、この意見に対して同意を貰えるはず。  結論。ほら、感覚が受信拒否するのも無理はない。 「……何してるように見える?」 「……頭のおかしい人の真似?」 「馬鹿か。釣りだよ、釣り」  馬鹿に馬鹿と言われるほど腹の立つ事は無い。  ああ、もちろん先輩が平時から馬鹿だと言う訳じゃない。  ……言わないわけでもない。
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