終着駅の君に会いに行く

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 がたんごとん。  電車の走る音が聞こえる。目の前を流れていく景色は黄昏に染まっており、直におとずれる夜が既に顔を覗かせ始めていた。  黄昏時にのみ走るこの電車に揺られ、僕は終着駅へと向かう。乗客は僕一人だけ。車掌の声も聞こえない。  僕がぼんやりと外を見つめていると、一瞬だけ外が真白に包まれた。視界が閃光し、刹那の間だけ何も見えなくなる。もうこの奇妙な現象にもだいぶ慣れてきた。  キキーッと甲高い音を立てて、電車がゆっくりとスピードを落としていく。段々と車内の空気が冷えていくのを感じながら、僕は目を開けた。  温度差により曇ってしまった窓からは、外の様子は窺えない。ゆっくりと立ち上がれば、白い息が口から吐き出される。冬にはまだ時間があるというのに、今僕がいるこの場所だけが冬を迎えてしまったみたいだ。  やがて静止した電車の扉が開かれる。冷たい冬の空気が肌を刺した。  真っ先に飛び込んできたのは、冬の澄んだ朝の空と動きを止めた純白。降る雪や羽を広げた鳥たちは宙で動きを止め、風で舞った雪の欠片は何かのアートみたいにそこに佇んでいた。  冬の朝の駅。それが僕が目指した終着駅。蔦や氷柱が蔓延る透明感のある駅。しかし、ここに生きているものは存在しない。    ここは、時が止まった世界なのだ。  その世界の中心で、こちらを見つめる少女が一人。 「待ってたよ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加