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がたんごとん。
電車の走る音が聞こえる。目の前を流れていく景色は黄昏に染まっており、直におとずれる夜が既に顔を覗かせ始めていた。
黄昏時にのみ走るこの電車に揺られ、僕は終着駅へと向かう。乗客は僕一人だけ。車掌の声も聞こえない。
僕がぼんやりと外を見つめていると、一瞬だけ外が真白に包まれた。視界が閃光し、刹那の間だけ何も見えなくなる。もうこの奇妙な現象にもだいぶ慣れてきた。
キキーッと甲高い音を立てて、電車がゆっくりとスピードを落としていく。段々と車内の空気が冷えていくのを感じながら、僕は目を開けた。
温度差により曇ってしまった窓からは、外の様子は窺えない。ゆっくりと立ち上がれば、白い息が口から吐き出される。冬にはまだ時間があるというのに、今僕がいるこの場所だけが冬を迎えてしまったみたいだ。
やがて静止した電車の扉が開かれる。冷たい冬の空気が肌を刺した。
真っ先に飛び込んできたのは、冬の澄んだ朝の空と動きを止めた純白。降る雪や羽を広げた鳥たちは宙で動きを止め、風で舞った雪の欠片は何かのアートみたいにそこに佇んでいた。
冬の朝の駅。それが僕が目指した終着駅。蔦や氷柱が蔓延る透明感のある駅。しかし、ここに生きているものは存在しない。
ここは、時が止まった世界なのだ。
その世界の中心で、こちらを見つめる少女が一人。
「待ってたよ」
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