isolate:firstbook(until;lastbook)/

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 私は今、一冊の本と共にいます。  この本は、何の変哲もない一冊の辞書です。  ですが、人類史上はじめて出来上がった本です。  この本は、地球上はじめて誕生した統一言語の辞書です。  私が生まれる前からこの本は作られはじめて、物心付いた頃からは、私の補助側頭電葉には全ての本の内容が書き込まれていきました。  この本が出来上がるまでに、どれだけの人が関わって、苦労して、涙が流れたか。私には想像することしかできません。でも、本の一ページ一ページから、その光景が目に浮かんでくる程には、私の人生はこの本と共にありました。  紙の本というものが無くなって久しい今、私がこの分厚い紙の辞書と共にいる理由はたったひとつです。  今の地上が『もしも』なくなってしまったとき、なくなりはしなくても電子の本を読む手段が消失してしまったとき。  そんな時、私は見つけてもらうことになると思います。この辞書といっしょに。それが、私が生まれてきた理由です。  地下シェルターの遥か下、これからはここが私の居場所になります。  今の冷凍保存技術では、寒いと感じる間もないと聞かされていましたが、やはり少し寒さを感じます。  辞書には、『孤独』の説明として『心が寒くなる』と記述されています。その知識があるから、今私は寒いと感じているのでしょうか。  間もなく私の意識は途切れ、深い眠りにつきます。  願わくは、私の意識が二度と戻ることはありませんように。  この本が、開かれることはありませんように。
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