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イラっとして声をかけた。
「何してんのん。なんでギターなんか弾いてるのん、こんな朝はようから」
「弦変えたから、どんな感じかなって思って。うるさかった？アンプにはつなげてないから、そんなに大きな音はなってないと思うけど」
「別にうるさかったわけちゃうねん。なんかコソコソギター触ってるから、イヤやねん。今まで見向きもせえへんかったのに」
「そうだね。うん。こんな朝からおかしいね。ちょっとね、知り合いにギター弾いてくれって頼まれてね。それでどうなのかなって、音出せるのかなって思って」
旦那はカシャカシャとギターを弾いてみせた。
「怪我してやめたんでしょ。ちゃんと弾けないんじゃないの。それ引き受けたの」
「そんなに本気じゃないんだよ。ちょっと軽く伴奏するだけだから、プロじゃないし、昔ほどちゃんと弾けるなんて思ってないし」
「引き受けたんや。それで本気になったんや。俺はまだまだやれるって、そう思ってるんや」
「考えすぎやって、ちょっと弾くだけ。何も業界に戻ろうなんて思ってないから。ギタリストでやっていけるほど、上手く弾けないから」
「断ってきて。しょうもない頼み断ってきて」
私はそう言って部屋を出た。私が出た後少ししてまたギターが鳴る音が聞こえた。私は聞こえるだろうと思って耳をすまして待っていた。私は布団をかぶって、なるべく音が聞こえないようにした。
旦那が仕事で出た後、ギターに触って見た。初めて触った。思ったよりもしっかりした作りだ。持ってみた。重い。見かけよりもずっしりと重い。音を出してみた。不協和音がなった。
台所からキッチンバサミを出してきて、弦をすべて切った。切った弦がギターからだらしなく垂れている。もうこれで音は出ないはずだ。