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午後五時、ぼろぼろの軽自動車に乗ると、漢方屋の主人から電話がかかってきた。休日で申し訳ないが二時間だけ店番をしてほしい、と言ってきた。
夏目はフロントガラス越しに蝉色の町を見つめながら、応えた。
「ええ、いまから、行きます」
雲が落とす影の中をしばらく走った。漢方薬局について、ガラスのサッシ戸に鍵をさしこんでいたら、ぽつぽつ雨が降り出した。城下町らしい阿弥陀の坂道から、蒸気があがっていた。
うしろのほうで、野暮ったいOL臭がした。つんと鼻をつくコロンの匂いが漂ってくる。
ふり返ると、三十過ぎほどの女が居た。
紺色の事務服姿の、ふわふわとした髪の女だった。
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