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   夏目はこめかみを空白にしたまま、うかつにも、はい、と頷いた。すると彼女は色めき立ち、夏目のまなこを俄然(がぜん)見詰め始めた。  さらには丸い小さな切り株に筆で「妊」と書かれた飾りを見つけ、その切り株に敵愾心をたぎらせるようにした。    やがて、くッ、という舌打ちに似た呻(うめ)きのあと、俯く。  だが暫くすると、気を取り直し訊いた。 「いつも、お坊さんみたいな店主さんだったのに、今日は違うんですね」  夏目は、頷いた。 「ええ、急に店番を頼まれて」  彼女は唐突に尋ねる。 「ねえ、あたし、妊娠出来るのかな」  夏目は応える。 「僕は腎精には詳しくないのです」 「あたしが言いたいのはね、……あたしはべつに結婚を焦ってなんかいないのよ。そうじゃなくて最近の男性はみんなふられるのが怖いだけって言いたいの」  と言って、ちらちら色気のないぼた餅のような腿を殊更(ことさら)に披露し出した。  夏目は、彼女の足から静かに目を逸らしながら、ゆっくり尋ねた。 「職場のその男性は?」  
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