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  「川堂のこと? あの人は、あたしには興味なんかないわ。だって、この頃、死ぬほど好きな女ができたようなんですもの」 「そのパートの女性ですか」 「ううん。ぜんぜんべつの女。彼は趣味で劇団をやっていて、この前魚屋で見かけた美人をスカウトしたって言ってた。昨日も熱っぽい目でスマートフォンで撮った写真をじっと見ていた。横からちょっとその写真を見たら、たしかに綺麗だけど、なんだか雰囲気が妙な感じで、薄暗かったんです。たぶん、あの女は……」  とアカネは手のひらで輪をつくって、首に触れたあと言った。 「幽霊よ」 「幽霊?」  そして壁の一角をギョロリと睨んだ。涙が溜まっている。紺の制服のスカートをぱたッと手ではらい、鼻頭をあかく燃やしながら、薬の入った包み袋を握りしめた。 「いいんだもん。もう川堂のことなんか、以前ほど好きじゃないんだから」  
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