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軽自動車に飛び乗って、心中屋敷に向かった。人気のない切手売りの店先に車を停め、じっくりと沈んでいく陽をしばらく眺めた。誰が葉書の返事を? そう呟いた。
車から降り、茫茫草のしげるその家の敷地に入り、ひずんだ屋敷を眺めた。音がしたので、おやと目をあげそっちに回った。
居間だろうか、六畳間からテレビの音が聞こえた。
夏目は耳朶を動かした。近づくと窓が開いていた。ちょっとこわばりながら中を覗く。タケノコが床から突き出す奇怪至極(きかいしごく)の空間で、昭和時代のトリニトロンテレビがついている。番組は現在やっているものと同じだった。夏目は息をひそめ、ますます近づいた。
「女だ」
テレビのほうを向いているから顔は見えない。サックスブルーのホットパンツ姿で、むっちりとした象牙色の脚を畳んでいる。やわらかそうなふともも……
ふうん、と見とれた。
その後ろ姿がとても綺麗だった。
ふいにテレビが消えた。
女が、ごとり、と少し顔を動かした。消えたテレビの画面に夏目の顔が映っている。気づいたのか? 息を呑んだ。
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