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車に乗り込み、エンジンを始動させて時速二十キロで走り出すと、地面を掘削するひどい轟きが聞こえた。
首のもげたカーブミラーの下で、見覚えのある土木作業員がぎらつく鏡を並べている。
西城社長の会社の作業員だった。
夏目はほぼ停止状態まで、減速した。作業員になにか声をかけようと思った。しかし、たいした用事もないことに気づき、ふたたびアクセルに足をかけた。
「おや?」
そこにある首無しのカーブミラーが、錆びた巨人のように、こちらを無い目玉で睨みつけている。
なにか語られている気分になる。
”──お前は開いてはいけない世界を開き、抱いてはいけない想いを抱き、触れてはいけない肌に触れるのだ──”
「……」
釘をさされた気がした。眼を夜光鳥色に染める。
しかし夏目は首をふり、ぼやく。
そう簡単に止められるはずがない。
人間は、所詮、感情の道具にすぎないからだ。感情こそが、人間の存在を生んだのだし。
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